泣き疲れて眠った夜が明けて、朝を迎えた。

外から、鳥の鳴き声が聞こえ、窓の方を見ると明るい日差しが差し込んでいる。

アンは、昨日の悪夢を忘れたかのように、窓を開け外を眺めた。

うっとりするような、清々しく美しい外の景色に見とれてしまった。

「なんて、素晴らしい朝なんでしょう!!!」

ここでも、アンの魅力的な人柄がでている。

もう、あれほど願った、グリーンゲイブルズという自分の家をあきらめないといけない、苦しい現実を抱えているにもかかわらず、目の前の景色をすばらしい!と感じているところが、かえって、アンの心の深さを、私は感じるのだ。

そのあと、マリラが、朝食の支度ができたからと呼びに来た時に、マリラに、自分の思いのたけをうれしそうに話し出すのだ。

窓辺に置いてある、“りんごあおい”に「“ボニー”と名付けたの! おばさんだって、ただの“おんな”と呼ばれたらいやでしょう!?」と。

グリーンゲイブルズの庭に咲く満開の桜の木に「あのすばらしく美しい桜の木には、“雪の女王”と名付けたわ! ここを去ることになっても、“ボニー”や“雪の女王”や、ほかの素晴らしい景色すべてを、いつまでも心の中に留めておきたいの!!!」

この言葉から、アンがどれほどの思いで、ここまでやってきたのか、思いの深さを感じずにはいられない!!!

この思い出だけを頼りに、これからも過酷であろう人生を生きていこうとする、ある意味、アンの心の叫びである。

マリラには想像もつかない、アンの心の訴えに、不思議な面持ちで朝食を促し、孤児院へ引き返そうとする支度の準備をするよう命じるのだった。

行き違いの理由を聞き、孤児院へ送る段取りをつけてもらおうと、まちがって連れてきた、スペンサー夫人に会いに行くというのだ。

朝食は、アンもマリラもマシューも、それぞれの思いで言葉が出ず、無言の時間を過ごした。

マリラは、アンのこの空想癖についていけず、イライラするから黙るように言い、アンは、刻々とせまる、ここから去らなければいけないという思いが強くなって、マリラのことばをさえぎる程の元気で話し好きのアンではなくなり、マシューはというと、何とかしたいという思いから、夏場の忙しい時期には近くの男手を借りるといったようなことを、マリラにこれからの現実をとどまってもらおうと言ってみたものの、マリラに、考えは変わらない!と強い口調で返されて、黙り込んでしまったのだ。

やはり、マリラは現実的で、融通の利かない頑固者だ。

朝食が済んで、片付けも終わり、とうとうスペンサー夫人のいる村へ出発することになった。

アンが乗った馬車が動き始めると、アンは後ろを振り返り・・・「さようなら!!! “ボニー!” さようなら!!! “雪の女王さま~!” さようなら!!!“グリーンゲイブルズのみんな~!”」と、声を大にして、別れを告げるのだった。

マシューは、馬車が去って見えなくなったところで、たった二日間だったが、アンに惹かれる強い思いにわれに返り、馬車を必死で追いかけたが追いつけず、そこで自分の勇気の乏しさを後悔するのだった。
なぜ、もっと強く引き止めることができなかったのかと!
この後悔の念が、後々、アンへの強い優しさへとつながっていくのだ。