スペンサー夫人のところから帰ってきた二人ではあったが、マリラは、アンを引き取ることを、気持ちの上では決めていたものの、現実主義のマリラである、なかなかアンにはそのことを告げようとはしなかった。まず、マシューとのお互いの気持ちを確かめなければと思ったのだ。

マシューは、本来子供が、特に女の子が大の苦手であったが、アンのことをとても気に入っている様子だし、ブルエット夫人の話しをしたところ、ブルエット夫人に託すことはしたくないという気持ちは、マシューもマリラも共通のようで、マリラも、アンのことがほっとけないような気持から、アンを連れ戻ったことを、マシューも大変喜んだのだ。ただ、マリラの覚悟の中には、子供を育てたことが無いことをわかった上で、自分にしつけを任せてほしいとマシューに告げた。アンに対して、マリラの厳しい部分とマシューの甘い部分とのバランスが、今後のアンの成長への良い方向へと進みそうだ。

マリラは、朝からアンにいろいろな用事を言いつけて、アンの様子をうかがっていた。アンも、いつものおしゃべりは避けて、言いつけられた用事をこなし、ハッキリと引き取ってもらえるという言葉を聞くまでの不安をかき消すように、もくもくと働いた。そして、マリラはというと、アンの働きぶりを見て、気が利いていて、仕事ののみ込みも早いことを理解した。

一通りの仕事が片付いたところで、さすがにアンもたまりかねて、マリラに聞いてみたところ、「アンの察した通り、引き取ることを決めたよ!ただし、いい子でいることと、感謝の気持ちを表すように!」と言った。

アンは、この上なく、嬉しく、何事にも代えがたい幸せを感じたのだが、ここで、アンの正直なところが垣間見える。それは、「とてもいい子になるように努めるわ!骨が折れるとは思うけどね!」と言ったところだ。

これまでの生い立ちから見て、一日一日精一杯生きてきただけで、いい子でいることがどういうことかは知らないし、感謝するという出来事が無さ過ぎて、「ハイ!必ずそうします!」とは言えなかったのだ。アンにとって、マリラにそう答えることは、ウソの無い素直なそのままの答えだった。

アンはこれまで酷い環境でも、歪んだ正確にならなかったのは、“想像力”という自分だけが逃げ込める世界で、たった一人で乗り越えてきたのだ。感謝できたり、行儀よくできる環境では決してなかった。だから、これから努力すると言ったのだ。マリラは、少し呆れていたようだが、いやな感じはしなかったようだ。ただ、これからしっかり養育しなければ!とは思ったことだろう。

アンは、マリラから喜ばしい言葉を聞いてから、幸せすぎて少ししてうわの空となり、グリーンゲイブルズの周りから、何か呼ばれているような気がして、表に飛び出した。

『雪の女王さま』や『きらめきの湖』、森や川や鳥たち全部に、これからよろしくね~!という気持ちであいさつした。

“グリーンゲイブルズのアンになったのよ!!!”

という思いで、「くぼ地の樺の木さ~ん!小川やモミの木さ~ん!こんにちは~!」

と、この喜びを全身全霊で伝えたかったのだ。時間を忘れるほどに、この喜びを分かちあった。そして、アンをすべてが受け入れてくれたように感じていた。

そして、マシューのいる畑のところへも行って、飛びついて、この喜びと、感謝を伝えた。マシューも心から喜び、二人で抱き合って、その気持ちを分かちあった。

お茶の時間に三人で語り合い、その片づけのあとに、マリラは、アンがこれまでの少し度が過ぎた空想の話しを聞かされた。戸棚のガラスに映った自分の姿を見て、“ケティー・モーリス”と名付けて、唯一の友として接し過ごしてきたと。

マリラは、その空想は良くないと諭し、となりの丘に住むダイアナ・バリーという、実在する子と友達になるようにと話した。アンにとっては、ダイアナと友達になることも、実現しそうな予感があった。

アンは、マリラに部屋でお祈りをするよう言われたが、途中でまた空想にふけり、自分の理想の姿である、黒髪で透きとおるような肌の“コーデリア・フィッツジェラルド姫”になりきろうと思い浮かべてみたが、やはり、コンプレックスの赤い髪の毛がじゃまをし、われに返る。だけど、鏡を見て、今までとは違う思いで、どこのアンでもないより、“グリーンゲイブルズのアン”になったことを改めてかみしめ、窓の外の向こうの丘の家に向かって、心の中で叫んだのだ。

「ダイアナ!!! 心の友になってね~!!!」